民法改正に影響した6.1最高裁判決

 

 こんな事件がありました。


 「足立区土地開発公社が、足立区から、東京都が進めていた日暮里と舎人地区を結ぶ新交通システム日暮里・舎人線(仮称)の開設に不可欠な用地の被買収者に対して提供する代替地の取得を要請されていたため、足立区土地開発公社は、平成3年、主にフッ素機能商品の製作販売を業とする株式会社との間で、代金約23億円で、本件売買契約を締結しました。」


 その後、「西宮市北部地域は、隣接する宝塚市とともに、古くから六甲山系からでる河川の水に含まれる高濃度のフッ素による斑状歯被害の危険性が指摘されて、六甲山系の川水を飲料水として常用する宝塚市では、斑状歯を表す『ハクサリ』という地名があるほど」(平成5年12月17日、最高裁)などと、フッ素は社会問題化していましたが、平成15年には、土壌汚染対策法が改正施行され、フッ素及びその化合物が特定有害物質と定められました。


 そして、「土壌汚染調査により、本件土地の土壌がフッ素等の有害物質で都条例で定められた土壌汚染処理基準をはるかに超えて汚染されていることが明らかになったため、都条例により、汚染拡散防止措置を必要とすることになりました。平成17年、本件土地の土壌汚染対策工事として代金約4億6000万円で発注し、支払った。」


 足立区土地開発公社は、売主に対して、瑕疵担保による損害賠償請求を求めました。

しかし、最高裁は、次のように判決しました。


 「売買契約の当事者間において目的物がどのような品質・性能を有することが予定されていたかについては、売買契約締結当時の取引観念をしんしゃくして判断すべきところ、前記事実関係によれば、本件売買契約締結当時、取引観念上、フッ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されておらず、買主・足立区土地開発公社の担当者もそのような認識を有していなかったのであり、フッ素が、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるなどの有害物質として、法令に基づく規制の対象となったのは、本件売買契約締結後であったというのである。本件売買契約締結当時の取引観念上、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されていなかったフッ素について、本件売買契約の当事者間において、それが人の健康を損なう限度を超えて本件土地の土壌に含まれていないことが予定されていたものとみることはできず、本件土地の土壌に溶出量基準値及び含有量基準値のいずれをも超えるフッ素が含まれていたとしても、そのことは、民法570条にいう瑕疵には当たらないというべきである。」(平成22年06月01日最高裁裁判長・堀籠幸男)


 この判決は、「目的物がどのような品質・性能を有することが予定されていたかについては、売買契約締結当時の取引観念をしんしゃくして判断すべき」として、当事者の売買契約締結当時の“主観的な取引観念”を考慮して、瑕疵の有無を判断したという大きな事件です。


 この日から、不動産の売買契約書には、取引当事者の取引観念である「契約の趣旨」や「購入動機」などを、「契約の内容」として特約にして明記することにより、不動産トラブルを回避する重要な争点になる、ということがはっきりしたわけです。

 

 

 

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2024年03月03日